【日本メガネベストドレッサー賞】岸博幸さんインタビュー「目指すべきは日本の食文化!? これからの日本のめがね業界に必要なもの」

「第32回 日本メガネベストドレッサー賞」を経済界部門で受賞された経済評論家で慶應大学大学院教授の岸博幸さんに、「めがね新聞」がインタビューしてきました!

わかりやすさとユーモアを兼ね備えた解説で、さまざまなメディアに引っ張りだこの岸さん。バラエティ番組でみせる優しい笑顔に癒やされる人も多いのではないでしょうか。

岸さんはベストドレッサー賞の受賞式のスピーチで「日本はものづくりが素晴らしく、世界一消費者がうるさい市場でもある」と解説し、「その環境下で国内外のめがねメーカーが切磋琢磨して、いい製品を生み出す日本のめがね業界の競争力は世界一だ」とコメントしました。

そんな、日本のめがね業界を絶賛する岸さんに、さらにめがね業界が盛り上がるにはどうしたらよいのかのヒントを伺いました。その前に、まずはご自身のめがねについての話題から……。

今回の受賞で実感した、ある有名人からのアドバイス

先ほどはiOFT(※)の展示ブースで、たくさんのめがねを試着されていましたね。

いつもスクエア型フレームのめがねをかけているので、これとは違う形やカラーのフレームのめがねをかけてみました。試着してみると、意外と自分の顔にしっくりくるものも多かったです。

日本メガネベストドレッサー賞の副賞として贈られためがねの中には、ボストン型やラウンド型の丸いフレームのめがねもあり、受賞式のステージでもかけられていましたね。

人生で初めて丸いフレームのめがねをかけたので、ちょっと恥ずかしかったですが、案外丸いのも悪くないなと(笑)。

岸さんの柔らかい雰囲気とマッチして、とってもお似合いでした!

ありがとうございます。かれこれ45年ほどめがねを愛用しているのですが、普段は1本のめがねを壊れるまで愛用するタイプなんです。髪型を頻繁に変えないのと同じように、めがねもひとつのものをかけ続け、壊れたら買い換えるというのが当たり前だと思っていました。

ですが、今回賞をいただいて、日常で色んなめがねを使い分けるのも大切だなと感じています。今、中尾彬さんにとてもお世話になっているのですが、「めがねはおしゃれに使うものだ」と言われていたことを実感しましたね。

中尾さんも長年めがねを愛用されていて、中尾さんのお名前にちなんだモデルのめがねがあるほどです。これからは一緒にめがねトークを楽しめますね! 岸さんはめがねを選ぶ時、こだわっているポイントはありますか?

私の好みで選ぶこともあるけど、最後は妻に決めてもらっているんです(笑)。今日の受賞式で素敵なめがねをたくさんいただいたので、早速その中から妻に選んでもらおうと思います。

今後のめがね業界は「ハイエンド」がキーワード

岸さんは、「越前漆器」を生かした地方創生プロジェクトのため、鯖江によく行かれているそうですね。

2015年から「伝統工芸みらいプロジェクト」という取り組みを鯖江市と行っていて、現在は越前漆器の現代化・産業化を目指して活動しています、そのため、鯖江にはよく訪れているんです。鯖江市は世界有数のめがねの産地としても有名ですよね。

「めがね」と「越前漆器」は、福井県・鯖江市の代表的な伝統工芸です。では、毎年6月に鯖江でめがねのお祭り「めがねフェス」が開催されていることもご存知ですか?

「めがねフェス」!? そんなイベントがあるんですか?

めがねの職人さんやデザイナーなどの作り手から直接話が聞けたり、めがねをかけたアーティストのライブステージがあったりなど、めがねにまつわるイベントが盛りだくさんのお祭りなんです。めがね新聞編集部も毎年取材をしているんですよ!

それはすごい! めがね好きにはたまらないイベントじゃないですか。

毎年来場者数が増えていて、どんどん盛り上がっています! その一方で、めがね職人の高齢化と後継者不足という問題が年々深刻化しているという声を多く聞くようになりました。

それは漆業界も同じですね。今、漆器職人の平均年齢は70歳を超えています。その中で、昔から受け継いでいる伝統を守りながら、これからはどんどん新しい事にチャレンジしていく必要があると感じています。

漆は非常に美しく機能性にも優れる素材だから、いろいろな商品に活用することで若者の目を引き、もっと幅広い漆のマーケットを作れると思います。これはめがね業界でも同じことが言えるのではないでしょうか。

めがねの新たなマーケットを作り出すには、具体的にどんな事をすれば良いのでしょうか?

例えば、福井の伝統文化をコラボレーションさせた漆塗りのめがねフレームがありますが、そのように新しいデザインや素材にチャレンジしたもの作りに期待しています。私は職人が生み出す、高品質なプロダクト、いわゆる「ハイエンド」な価値が、めがね市場をさらに伸ばすことに繋がると考えているんです。

この20年、日本はデフレ状態が続いて外食業界やアパレル業界など、多くの業界で低価格帯の商品を販売する「ローエンド」の市場が地位を確立していきました。めがね業界も同様に、今は低価格帯のめがねを扱うローエンド市場のメーカーが元気ですよね。その市場が盛り上がること自体は素晴らしいことですが、高価格だけど本当に質のいいもの、つまり「ハイエンドのめがね市場」はまだまだ拡大する余地があると思っています。

めがね業界の中で、ハイエンド市場をもっと活性化させてもいいのでは、ということですね。

食文化がいい例なのですが、日本の飲食業界はハイエンド市場も確立しつつあるんです。今、世界中のお金持ちから「日本の食文化は世界最高水準だ」と認知されるようになり、彼らはこぞって食を目的に日本に訪れています。特に東京は日本食に限らず、フレンチやイタリアンなど世界各国の食が非常に高いクオリティーで提供される場所となっています。

和食がユネスコ無形文化遺産に登録されたように、日本の食文化や、日本食以外でも日本の料理人の技術の高さは、世界から高い評価を受けていますね。

今日展示ブースを見て改めて感じましたが、日本のめがねもすでに世界最高水準だと思います。私はメガネベストドレッサー賞の受賞式で「日本のめがね産業の競争力は世界一だ」と言いましたが、その競争力から生まれた素晴らしい製品がもっと世界で認知されることにより、めがね業界のハイエンド市場が確立すると思っています。今日、展示ブースをまわり、その実力は十分にあると感じたので、世界に向けて次の一歩を踏み出せるかが重要だと感じました。

その一歩にはめがねを作る側と、提供する側と、両方の力が必要になりますよね。

まさに、そうなんです。めがね職人の技術に、現代の若者やハイエンドのユーザーが喜ぶような新しい素材、色、デザインなどをどう取り入れていくか、そして売り方も、もっと新しいアプローチ方法があるかもしれない。まだまだ進化できる部分があるはずです。

それを追求していけば、飲食業界と同じようにめがね業界も市場全体が盛り上がり、ゆくゆくは地方経済の活性化にも十分に繋がると思います。これからも国内外のめがねメーカーが切磋琢磨して、さらに素晴らしい日本のめがね市場をつくり出してほしいと、めがねを愛用しているからこそより感じていますね。

取材を終えて

「日本のめがね業界の活性化について、岸さんからもっとヒントを伺いたい!!」と思いましたが、残念ながら時間切れ…。

日本メガネベストドレッサー賞の受賞を機に、テレビで日本のめがね業界について解説をする岸さんの姿を拝見できることを心待ちにしています!
岸博幸さん、ありがとうございました。

【写真】 田島雄一

※iOFT:
毎年秋に行われる、アジア最大級のめがねの国際見本市。ここで「日本メガネ大賞」や「日本メガネベストドレッサー賞」も発表される。

岸博幸(きし ひろゆき)


慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科教授。
1962年東京生まれ。1986年に一橋大学を卒業して通産省(現経産省)入省。
1992年コロンビア大学ビジネススクール卒業。小泉政権では経済財政政策担当大臣、金融担当大臣、総務大臣などの秘書官を歴任し、不良債権処理、郵政民営化などの構造改革を推進。
現在は経済評論家として「グッドモーニング」 (テレビ朝日)、「ミヤネ屋」(読売テレビ)、「全力!脱力タイムズ」(フジテレビ)などでコメンテーターを務める他、avex 顧問、総合格闘技団体 RIZIN アドバイザーなどを兼任。