【ボストンクラブ デザイナー】笠島博信さんインタビュー「”伝える”を意識するデザイン」
目次
「つくり方」だけでなく「伝え方」が問われる時代に、僕がすべきこと
20年以上にわたってめがねづくりに携わってきた笠島さんから見て、今後日本のめがねづくりは、どのように進んでいくと捉えていますか?
笠島まだまだ伸びしろはあると思います。特に「伝え方」の部分でやれることがたくさんあります。これは特に産地のデザイナーさんに言えることですが、技術にはこだわっていても、それを”人に伝える”というプロセスを疎かにしていることが多い。これはとてももったいないことです。私自身が、「伝え方」を強く意識するようになったのは2010年頃で、そこからプロモーションムービーやメイキングムービーの製作にも携わりはじめました。
実際に、ボストンクラブさんはWebサイトにもこだわられていますよね。ヴィジュアルからも文章からもメッセージが明確に伝わってきます。
笠島社内全体で伝え方を大切にしようと雰囲気がありますね。ただ、まだまだな部分もあって。ネット全盛の今の時代にどう対応して、どう自分たちの世界観を届けていくか、まだまだ整理しきれていないのも確かです。そのあたりは、僕よりもはるかにネットリテラシーの高い、20代、そしてこれから社会人になる若い世代の人たちの力を活かしていこうと考えています。
「どうつくるか」だけではなく「どう伝えるか」かが、今後のめがねつくりにおいて重要になっていくのですね。
笠島そうですね。自分のこだわりを、人にどう伝えるか。そこまで含めてデザインなのだと思います。これは僕が中学生向けに開催しているデザインのワークショップでもよく話していることです。
そういった活動もされているのですね! どういったワークショップなのですか?
笠島めがねのデザインを実際に体験してもらうワークショップです。ターゲットは誰なのかを考えるところからはじめて、どうすればその人が喜ぶデザインができるのかを考え、それをみんなでプレゼンテーションします。それらを通じてデザインとは何かを知ってもらいたいんです。これは中学生に限りませんが、形を考えたり、色を塗ったり、そういった表層的なことをデザインだと考えている人がまだまだ多い。そうではなくて「今ある問題を解決して、それをきちんと人に伝え、そして関わっている人たちがバランスよく潤うことこそがデザインなんだ」と伝えたいんです。
そういった考え方を中学生のときに学んでおくと、その後の世界の見方が大きく変わりますね。
笠島そのきっかけになれば嬉しいですね。どうやったら問題を解決できるのか、どうやったら自分のこだわりが人に伝わるのか。そうした問いを立てる能力は、デザインに限らず様々な場面で役に立つはずです。僕は今、京都精華大学でもめがねのデザインを教えていますが、ここでもデザインを学ぶことで、それぞれの学生が自分のフィールドで活かせるヒントを持ち帰って欲しいと考えながら授業しています。
教えるという経験を通じて、感じたことはありますか?
笠島まずは学生のレベルの高さに驚きましたね。みんな当たり前に3Dで設計もすれば、プログラミングもする。インターネットを通じて優れたコンテンツにも日常的に触れているから、感性も磨かれている。ただそれが当たり前なので、その中から一歩抜け出すためには、誰かがその才能をさらに磨く場を用意してあげないといけません。それがこれからの僕の役目なのかな、と感じています。これは社内でも同じです。若い人たちが力を伸ばせる機会をどうやってつくるか。今後は僕の力の半分くらいを、そちらに向けていこうかなと考えています。
めがねつくりの環境自体をデザインしよう、と。そういったところまで視野が広がっていらっしゃるんですね。ちなみに残りの半分の力は、どんなことに注がれていくのでしょうか?
笠島僕自身のデザインをもっと突き詰めたいですね。目指すのは「普遍的なめがね」です。既存のデザインを壊して創るということを基盤に置いた、無駄がなく、ピュアで、タイムレスなめがね。一見シンプルだけど、めがねに詳しい人だけではなく、誰が見ても良いと思えるめがねが理想です。そういうめがねを、残りの生涯でつくっていけたらいいですね。
笠島さんのつくる「普遍的なめがね」、いつかお目にしたいです。それでは最後に、笠島さんにとってめがねとはなんでしょうか?
笠島めがねは、かけている人を表す”鏡”だと思います。価値観もセンスも、めがねを見ればその人のすべてが一目で感じられます。それと同時に、めがねは鎧でもある。ここぞという場面で良いめがねをかけていけば、気持ちがグッと引き締まりますよね。雰囲気や行動だって、かけているめがねによって変わるはずです。その延長線上で言えば、人生だってめがねで変わってくる。だからこそつくり手は、魂を込めてめがねをつくらないといけないのです。いつもそう肝に銘じて、めがねと向き合っています。
笠島さんのめがねづくりにかけた情熱に触れることができました。今日は、ありがとうございました。
誰が見てもいいと思えるデザインを目指して
デザインは「つくるだけでなく、それをきちんと人に伝えることだ」という笠島さんは、まさにボストンクラブを体現しているデザイナーであると、お話を聞いて実感しました。ボストンクラブが、めがね業界を牽引してきた理由に触れた気がします。笠島さんのような方がいれば、きっと日本のめがねつくりの未来は明るい。そう思わせてくれるインタビューでした。
それにしても「これからは伝え方が問われる時代」とはなんて重い言葉なのでしょう。
私たちもまた、つくり手とは別の角度から、めがねの良さをもっと伝えられるように頑張らなくては。そんな思いを新たにさせてくれる、身の引き締まる時間でもありました。
「めがね新聞」では引き続き、めがね業界で活躍するデザイナーを追いかけ、めがねの最先端の思考を伝えていきたいと思います。お楽しみに!
BOSTON CLUB(ボストンクラブ)
書店で働きながら文章を書いています。
「たまごを割らずにオムレツは作れない」をモットーに、色々なジャンルの記事に挑戦していきたいです。
好きなめがねはもちろんオーバル型。