レスザンヒューマンチーフデザイナー甲賀潤さんインタビュー(後編)
目次
レスザンヒューマン(less than human)のチーフデザイナー、甲賀潤さんへのインタビュー、前回は甲賀さんがデザイナーとしての経歴をスタートするところまでをお聞きしました。今回はデザインやレスザンヒューマンについて、そしてめがねデザイナーを目指す上での心得(?)をうかがいます。
デザインの仕事について
デザインをする上でこだわっていることはありますか?
甲賀潤美しいこと!どんなに変な形でも美しいこと。バランスが取れない物があったとしても、バランスが取れない中で美しい。
客観的に見て美しいと思えること?
甲賀潤俺の中で美しい。
センスだ。
甲賀潤醜いものほど美しいものに憧れるってやつですよ。
じゃ、基準は自分って感じですか?
甲賀潤もちろん。製品化まで行く場合は営業の意見なり、打ち合わせなり、セレクトなりが入るのでこれとこれがイコールかというとイコールの場合もあるし、そうでない場合もあるんですけど。
めがねのデザインならではの特殊性みたいなものはあります?
甲賀潤みんなに分かりやすくすること。直接会って交渉すれば言葉で補える部分もあるんだけど、会わないケースがほとんどなので、できるだけ疑問はないように。
立体物のデザインだから、パッと見せられてイメージするの難しいですよね。
甲賀潤本人ですら怪しいことあるから。ややこしいこと考えると、それを三面図ですら全部辻褄が合わせる時に、想像力が足りないなって思うことがあるんですよ。正面は描けたけど、横から見てどうなのかなみたいな。それで、何日か経っていくっていう。
頭のなかに出来上がりみたいなイメージはものはあるんですか?
甲賀潤あるんだけど、しっかり出来てないとモニターの中に現れたものに負けちゃうんですよ。柔らかいもの(想像)なので、堅いもの(事実)に負けちゃうんです。
思いついてすぐ書き出したりしますか?それともちょっと置いてから?
甲賀潤ケースバイケース。すぐ描いていいようなものはそうするし、直ぐに描くと怪しいのは360度どっから見てもバッチリというぐらいまで頭のなかで作れてないケース。できるまで熟成させる場合とほどほどのところで取り出して描き始めて、描いたものから進めるケースもありますね。
そのケースの分け方は納期ですか?
甲賀潤納期も関連しますね。理想的には頭のなかで固めてから。そうじゃないと行き当たりばったりになるので、最初に目指したものにたどり着かなかったりするんだよね。目指したものって具体的な形じゃなくて、「こういうスタイル」で「こういうユーザー」が「こういうお店屋さん」で買ってくれて、「こういうとき」使って欲しいみたいな感じだから。
アイデアはどこからでてくるんですか?
甲賀潤今のところは、出てきているんですよ。はっきりとした出し方や思いつき方はいまだにないので、いつか止まるんじゃないかなと思っています。だいたいきっかけは、一瞬の閃きみたいなもんなんです。
常に考えているから出てくるんですかね。
甲賀潤考えているのもあるし、長くやって小売店も経験してるから、その分知っていることが多めなせいもあるかな。なんにもないところから出てくるわけないので。必ず、自分の中にインプットしたものを組み立てなおしたりとか、変化させて出てくるわけじゃないですか。そういう意味では年を取っていくのは有利ではありますね。
レスザンヒューマンについて
“レスザンヒューマン”の歴史としてはどのように進化しましたか?
甲賀潤進化ねぇ……してないんじゃない?(笑)変化はしているかもしれないけど、進化というほどの進化はしてないんじゃないかな。最近思ったんですけど、送り側と受け手側、バイヤー、ユーザーが“レスザンヒューマン”らしさを形に求めているというか、形で考えている感じがして。狭い世界でやっている気がしてならないので、「そうでない」ことを知らしていきたいなと。
今、進化させたいってときなんですかね?
甲賀潤2016年の秋から少し変えている感じなんですけど、まだまだ変えます。2017年の春はあんまり変わらないんだけどね。
まさに今、進化中ですか?
甲賀潤進化かどうかかはわからないけどね。それは、俺が決めることじゃないと思います。受け止める方が決めること。変化はさせているつもりです。
めがねは作るのにそれなりに時間がかかるものなので、今、俺にとって新しくて楽しいことは、皆さんには1年近く後じゃないとお見せできないというのが残念で。
今、出ているものは甲賀さんにとっては1年前のものって感じですか?
甲賀潤毎回そうなんですよね。それを手に取ってくれた方が、喜んでくれるのは嬉しいんですけど、今はもっと良いのがあるんだよなあって思ったりもするんですよ。
「新商品発売!」ってなってもテンションが上がらないみたいな?
甲賀潤そう(笑)。売れたときはテンションが上がるんですけど。ただ出たというだけだとそんなに…。「でたね」みたいな(笑)。
今までの作品の中で、思い入れのあるデザインはありますか?
甲賀潤あんまないんだよね(笑)。
どんどん次へ次へって進んでいっている感じですか?
甲賀潤そうじゃないといけないのかなと。よく、「前あったあれみたいの作ってくれませんか?」って言われるとちょっとガッカリするかも。
どんな感じなんです?
甲賀潤そのときから進歩してないんじゃないのか、それを超えてないんじゃないのか、と。駄目だなって思います。
これからやってみたいデザインとかはありますか?
甲賀潤あんまないですよ。20年もやっているので「こういうのやりたいんです!」ってさすがにない。最初はみんな、こういうのがやりたいってあるじゃないですか。何年かすると何割かは溢れていっちゃうんですよね。こういうのやりたいって言ってできたケースと、できないでそのまま終わっちゃったケースもあるので。できたケースもそこで終わっちゃって、その先に進歩がないことがよくあるし。
デザインを続けるモチベーションはなんですか?
甲賀潤生活を考えるとやらなきゃいけないし。もう1つは今を生きているっていうもの。「過去のモデル良かったよね!すごいね!」って言われても、「そうじゃないんだよ。俺は今を生きているんだよ」って。そうは見えないんだったら「力が足りないんだ」と、「もうちょっとやってやるよ」って。今でも現役なんだよってことを証明したい。「いまだにすごいね」みたいな。そこが上手くいってないとここ数年思っていて、変えたいなと思い変え始めたんです。皆さんに広く認知してもらえるようになるまでにはもう少し時間がかかるな。
なるほど。それがこれからの展望ですか?
甲賀潤まだ、そういう風にみんな思ってないからね。説明しないでも分かってもらえないと駄目なんで。
めがねデザイナーのこれから
めがねデザイナーを目指す若者に一言おねがいします。
甲賀潤やめとけ!!(笑)
(笑)なんでそう思うんですか?
甲賀潤同じデザインを目指すなら、もっと未来のある……
めがねデザイナーは未来ないんですか…?
甲賀潤今でも市場は縮小しているとしか思えないですよね。例えば、“JINS”や“Zoff”に対してうちみたいなコンセプト系、それぞれの業界内に占める比率が変わらなかったとしても、全体が縮小してしまっているから売上が減っていくんです。志す人がクラシックのデザインをしたいというなら、やめておけと。そうじゃない場合は、縮小している中でシェアを増やさないといけない。
それはなかなか厳しいことで、その努力はもっと規模の大きい業界で発揮したほうが良いんじゃないかな。その方が頭の良い人、参考になる人、勉強になる人いるんじゃないかと。めがね業界は小さいからそんなにいない(笑)。
例えば、中国と日本の超セレブの比率がお互い1%だとしても、13億の1%と1億の1%では違うというのと一緒。小さい業界なので、そこに人生の参考になることを教えてくれる人に出会う率は少ないから。それでもやりたいと言うなら止めないけれど、その場合は我慢強くないとやってられない。
入る会社にもよるんだけど、メーカー系だと基本OEMの仕事が多いので、「こういうのが作りたい」と夢を持って来ても、毎回描くのはすごく普通のやつだったり。それを毎日毎日描いて、だんだん最初の気持ちなんてなくなって、しまいにはただ会社に行ってとりあえず図を描いて家帰るだけみたいになっちゃうケースが多いので、くじけないこと。運良くもっていた夢を形にできた場合、次を考えなさい、終わりはないよと。とにかく次。やるんだったらね。でも、やめとけ。
職業になると難しいですね。
甲賀潤個性があっても職業デザイナーとして無理なケースもあるからね。
アーティスト寄りな感じですかね。
甲賀潤良く言えば。でも作品ではなくて商品なので、自分を発表する場ではなく商品性を持たないと。妥協点を探すというのかな。商品である、商売である、売ってなんぼなんだっていう視点は間違いなく必要ですね。
ありがとうございました!