【FACTORY900 デザイナー】青山嘉道さん×田村洋介さん Wインタビュー「“美しさ”を追い求めるデザイナーたちのリレー」【後編】

FACTORY900の デザイナー青山嘉道さんと田村洋介さんへの、Wインタビュー。前編ではFACTORY900の一ユーザーだった田村さんが、めがねデザイナーの道に飛び込み、最初の関門「デザインストローク」を無事に突破するまでのお話を伺いました。続けて話題は田村さんが初めて手がけためがねへと移っていきます。

はじめて手がけためがねは100点満点中「15点」だった

職人としての基礎、そしてデザイナーとしての基礎を着実に身につけていった田村さんが、最初に自分でめがねをデザインされたのはいつ頃なんですか?

田村デザインストロークが完成してすぐに、本格的にサンプルの制作に着手しました。サンプルなので、もちろん通常の製品のように機械は使わせてもらえないので、すべて手作業で行います。プラスチックを貼り合わせて塊にして、それを彫刻のように削りだしていくんです。サンプルをつくっては、青山に確認して意見をもらって。それを繰り返して、つくりあげていきました。


例えば、青山さんはどんな意見をくれるんですか?

田村最初のサンプルを見せたときは、「これは15点だな」と言われました。

道は厳しいですね…!

青山15点「も」あげたんだっけ?(笑)いや、まあ本当は僕が偉そうに点数なんかつけちゃいけないんだけど、こればっかりは数をこなして身体に染み込ませていくしかないから。

田村実際、僕も具体的なイメージが描けてなくて、そのときは闇雲に手を動かしていただけでしたからね。そういったやりとりを通じて少しずつ「これだ」という形を探っていきました。何カ月もかけてようやく納得のいくサンプルをつくることができるようになったら、その後はひたすら図面を描く作業に移ります。これも大変でした。この作業は今でも苦労しますね。

その図面は、前編でおっしゃっていたように社長にも見せるんですか?

田村そうです。社長が金型の設計をしてくれるので。それで「ここのラインは何度なの?」とか「この面とこの面とはどう繋がってるの?」と聞かれるのですが、そのときの僕はちゃんと答えられないんですね。それは結局ふわっとしたイメージで図面を描いているからで、そういう「嘘」のある図面って全部ばれちゃうんですよ。そのたびに描き直して、結局スケッチブック1冊以上の図面を描きました。

図面を描く段階でも青山さんからのアドバイスはあったんですか?

青山最初のめがねに関してはばんばんディレクションしました。相談しながらつくりあげていった感じかな。もちろん、彼のめがねだから、あえて指摘しないでそのままにしておく部分もありましたけどね。完成したのが取り掛かってから、ちょうど1年後だったよね。

ユーザー目線。それが彼の強み

1年の試行錯誤を経て生まれたモデルが……

田村「FA-068」です。

田村さんが最初に生み出したモデル「FA-068」

コンセプトを教えてください。

田村「逆Rの面をもったゴーグルタイプのめがね」です。上からみると、レンズの上部から顔に当たる部分をつなぐフレームの面が、内側にえぐれているのが分かると思います。立体的な造形が多いFACTORY900の中でも、「まだ試されていない表現」を探るうちに思いついたアイデアです。

前方にぐっと突き出したブリッジには、FACTORY900らしさを感じますね。

田村そうですね。やっぱり僕はFACTORY900のデザインに憧れがありましたから。もちろん、ただ憧れるだけじゃなくて自分の想いも詰め込みました。

「逆R」以外には、どんな想いがあったんですか?

田村ゴーグルタイプのめがねは、入れるレンズはカーブがきついものが多いので、そうすると強度近視用のレンズ(レンズの縁が厚くなるので、めがねのフレームからレンズの縁が大きく飛び出す事が多い)を入れることができないんです。というか、そういうめがねフレームの条件にあったレンズをつくれるメーカーさんがなかなかないんです。それが理由で欲しいめがねを諦めているお客さんを、めがね屋で働いているときに何人も見てきました。だから、ゴーグルタイプでありながら、レンズを真っ直ぐにしたデザインを考えたんです。

見た目の部分だけでなく、使いやすさの部分までが考えられたデザインなんですね。

青山そういうユーザー目線でバランスをとれるところが、僕とは違った田村の強みだと思います。僕は「もの至上主義」だから。

田村そこはめがね屋さん時代の経験が活きているんだと思います。

自分の想像の上をいくめがねが生まれた!

「FA-068」のめがねは、どこかに出展されたのですか?

田村フランスで行われる展示SILMO(シルモ)に出展させてもらいました。ただああいうゴツいめがねって、ヨーロッパでは受け入れられにくいと言われていて、実際にあまり売れなかったんです。でも、だからって「次はヨーロッパを意識したものをつくろう」とはまったく思わなくて、むしろ翌年に手がけた「FA-069」は、「もっとゴツいものにしてやろう」くらいの気持ちでした。

「FA-069」、ゴツっとしながらも曲線的で丸みのあるデザインですよね。

FA-069

田村そうですね。とにかくズシッと詰まったものがつくりたかったんです。手にとったときにしっかりと重さが感じられるものを。変な言い方ですけど、そういうモノとしての存在感があるめがねの方が、お客さんも「買い応え」があるんじゃないかと考えました。全体に丸みを帯びているのは、当時のFACTORY900のコレクションとの差別化を意識したつもりです。

その次に手がけられた「FA-320」になると、「FA-069」からやや削ぎ落とされたエッジーな印象になりますよね。

FA-320

田村お客さんに「次もゴツいのつくるんでしょ」と読まれている気がして。だからあえてそれまでの形とは全然違う、僕らしくないシャープなデザインに挑戦しました。

お話を聞いていると、田村さんは本当にユーザーのことを意識されているのがわかります。「FA-068」「FA-069」「FA-320」を皮切りに、数々のモデルを手がけられていますが、その中で最も手応えのあったモデルを教えてもらえますか?

田村「FA-324」ですね。当時やりたかったことを全部詰め込めました。上下でフレームの色が分かれているんですが、これは1回つくったものをあえて半分にして、再度つなぎ合わせているんです。こんなつくり方ができるのは、ウチぐらいじゃないでしょうか。切削の技術、プレスの技術、どれをとっても他の会社さんでは恐ろしくてできないはずです。社長も本当に応援してくれて、遅くまで制作に付き合ってくれました。完成したときは、本当に感動しました。

FA-324

「自分の思い描いたものがそのまま形になって出てきた!」という感動でしょうか?

田村いや、自分の思い描いた以上のものができたと感じたんです。つなぎ目が、本当にきれいにピタッと…あのときの鳥肌が立つような感覚は忘れられません。

青山さんの目に、「FA-324」はどう写りましたか?

青山うーん、難しいなぁ、褒めていいのかなぁ…?(笑)。ただ、ひとつの事実として、「FA-324」に関して僕はほとんど口を出しませんでした。それはきっと彼なりに、自分のやりたいことが明確に見えてきたからだと思います。それと「FA-324」がウチのエース機として、とてもよく売れていることは間違いありません。

この人はめがねのことしか考えてない。そこはまだまだ敵わない。

田村さんの手がけるめがねがよく売れる理由って、どのあたりにあると思いますか?

青山さっきも言ったけれど、やっぱりユーザー目線を理解しているところだと思います。色使いなんかにしても、ユーザーがどんな色を求めているか、しっかり把握しています。ぼくが「絶対に売れない」って断言した、田村考案のカラーリングが一番売れた事もありました(笑)。色使いに限らないけれど、めがねの向こう側にいるユーザーをはっきりと想像できることが、理由じゃないかな。

逆に、田村さんから見て「青山さんのここにはまだまだ敵わないな」と感じる部分はありますか?

田村青山が一番すごいと感じるのは、「この人はめがねのことしか考えてない」と思うくらい、常に真剣にめがねと向き合っていることです。僕は家に帰ると気持ちがオフになってしまうし、めがね以外の好きなことについて考えているときもあります。青山は、多分そういう時間がほとんどないんですよ。だから、そこはまだちょっと勝てないと思います。

青山デザイナーっていうのは、常に自分の理想を追いかける職業ですからね。「飽くなき追求」です。そういう意味で言うと、やっぱり田村はまだまだサボっている部分があるよね。それは自分が一番わかってると思うけど。

田村……そうですね。サボってると思います…。まだまだ、めがねに対しての向き合い方がフワフワしている部分があることは確かです。

田村さんのお話からは、まったくそんな印象はありません! むしろ、めがねへの情熱しか感じないのですが。

田村なんというか、僕はこれまでFACTORY900というブランドに守られてきたんです。新作モデルを手がけるにしても、コレクションの中のひとつのモデルを考えるだけで、あとは青山が全部やってくれていましたから。ぼくは自分のやりたいことだけをやっていれば良かった。そこはやっぱり甘えていた部分だと思いますね。


今までは、ある意味で自由にチャレンジしていれば良かった。でも、そろそろ次のステップに進まないといけない。そういう時期が来ているということでしょうか?

田村今がその境目だと思います。ちょうど今、この秋に発表するコレクションを、僕が丸々任せてもらっています。「これは売り上げを稼ぐモデル」とか「これはチャレンジ枠」とか、様々なことを考えて、全体を調整していかなくてはなりません。自社の工場でつくるから生産性のことも考えないといけない。そういうことも全部考えた上で、めちゃくちゃ売れるコレクションにしたいなと思っています。難しいですけれど、なんとか今年のSILMO(シルモ)展には間に合わせたいですね。

大変楽しみです! 弟子の頼もしい言葉を聞いて、青山さんは今何を感じられますか?

青山うーん……。沈むかもしれない船に一緒に乗ってるって感じかな?

そっ、それはどういう意味なんでしょうか…!?

青山それくらい覚悟してるってことです。そうじゃないとすべてを任せられないですよ。最後まで信じられるか、そう問われている思いです。でも多分、人を育てるってそういうことだと思んですよね。

「美しいめがね」という、遙か高み

青山さん自身も、お祖父様、お父様から青山眼鏡を受け継いで、様々なことをこれまでに学んでこられたと思います。それを今度は、自分がバトンタッチする番が来ていると考えられているということでしょうか?

青山そうですね。少なくとも、「美しいめがねをつくる」というFACTORY900の理念はすでに田村に伝わっているかと思います。もちろん、僕のめがねも、田村のめがねも「美しさ」にはほど遠いですが。


めがねのアカデミー賞と言われる「SILMO D’OR(シルモドール)」を受賞した青山さんから見ても、「美しいめがね」に到達するまでには、まだまだ距離があるのでしょうか?

青山遙か彼方の頂ですね。僕らはまだ何もできていない。その高みには、僕ではもう到れないかもしれない。でも踏み台にはなれると思うんですよ、田村がさらなる高みに行くための。いや、でも本当は逆に僕が田村を踏み台にしようとしてるのかもしれない。そのあたりは単純ではないんです。いずれにしても、「美しさ」の頂に、ひとりでは挑めませんから。僕も田村も、そして製造の現場に携わっている人も含めて、そこはFACTORY900というチーム全体で目指すものだと思っています。

めがねには無限の可能性が秘められている

FACTORY900の皆さんは、常に遥かなる高みを目指しているが故に、多くの人が支持するデザインが生み出されていることが、大変よくわかりました。では、最後の質問です。田村さんにとって、めがねとは?

田村…まだその答えはでていません。けれど、自分がつくりたいめがねのイメージはあります。僕はもっと自由なめがねをつくりたい。「この髪型には」とか「この顔の輪郭には」とか、そういうめがねの選び方がすごく嫌なんですよ。もっと自分のかけたいものや格好いいと素直に思っためがねを選んでほしいんです。だから僕は「似合う/似合わない」とか、そういう先入観を壊せる、もっと自由なめがねをつくりたいんです。


自分に似合うか似合わないかを考える前に、とにかくかけずにはいられない。そんなめがねでしょうか?

田村そうですね。そんなめがねがつくれたら、これからどんどん医学が発達して、例えば視力を簡単に回復できるような時代がきても、めがねが残っていけると思うんです。

どんな時代になっても存在しうるめがねということですね。青山さんにとっては、いかがでしょう?

青山僕も分からないな。だから、それを探し続けているんです。でも、そのヒントはユーザーの方からたくさんもらっていて。例えばFACTORY900のめがねがきっかけで、安定した仕事を捨てて、めがねデザイナーなんていうイバラの道を目指す奴がいる。他にも「FACTORY900のめがねを闘病生活の糧にしている」と言ってくれる人もいる。めがねっていうのは、そういう風に誰かの「スイッチ」を押すものなのかもしれない。そういうものになり得るのかもしれないとは思いますね。


お二人とも、めがねに無限の可能性を感じていて、その可能性を斬り開くためのチャレンジを常に模索されていることがわかりました。この先、お二人がどんな答えを出すのか、どんなめがねをつくっていくのか、本当に楽しみで仕方ありません。本日はありがとうございました。

まとめ

お二人とも、こちらの質問に対し、ひとつずつ確かめるように、けれども淀みなく、めがねに対する考えを語ってくださいました。そのお二人の姿から、これまでにも何度となく「めがねとは?」「美しさとは?」「デザインとは?」と語り合ってきた時間の積み重ねが浮かび上がってきました。お二人が深めあってきた思考の一部を、垣間見せて頂いた贅沢な時間でした。

それにしても、もっと「自由」で、誰かの「スイッチ」になるようなめがねとは、いったいどんなめがねなのでしょうか。これからのFACTORY900にも、ますます目が離せません!

青山嘉道さん×田村洋介さん Wインタビュー 「“美しさ”を追い求めるデザイナーたちのリレー」【前編】はこちらから!

FACTORY900(ファクトリーキュウヒャク)

オフィシャルサイト:
https://www.factory900.jp

福井本社:
青山眼鏡株式会社
住所:〒919-0326 福井県福井市半田町9-8
電話:0776-38-0003
FAX:0776-38-4433

直営店:
FACTORY900 TOKYO BASE
住所:東京都渋谷区神宮前5-21-21 MOON-SITE 1F
電話:03-3409-0098
営業時間:12:00-20:00
定休日:水曜日
※お問い合わせの際は、「めがね新聞を見た」とお伝えください。