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第17回 残酷歌劇『ライチ☆光クラブ』【めがねと映画と舞台と 】

第17回 残酷歌劇『ライチ☆光クラブ』【めがねと映画と舞台と 】

| 八巻綾(umisodachi)
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【めがねと映画と舞台と】と銘打った本コラムも気づけばもう17回目。今回は久々に舞台作品を取りあげたいと思います。

完成した不変のものとして世に出る映画とは異なり、舞台作品は演出やキャストによってめがねの有無はもちろん、全体の印象や細部の意味するものが変わってくることも少なくありません。

今回のテーマである『ライチ☆光クラブ』は、過去に複数回舞台化され、さらに映画化もされた作品。それぞれキャストも演出も印象も異なるため、本コラムでは実際に私が自分の目で観た2015年上演の残酷歌劇『ライチ☆光クラブ』に限定して書き進めたいと思います。

めがねと映画と舞台と 第17回 残酷歌劇『ライチ☆光クラブ』
©古屋兎丸/ライチ☆光クラブ プロジェクト 2015

原作である『ライチ☆光クラブ』は、劇団・東京グランギニョルの作品『ライチ光クラブ』を原作とした、古屋兎丸によるマンガ作品です。

光クラブという秘密基地に集う少年たちが、ライチという名の人造人間をつくり出そうとしたことにより、破滅へと突き進んで行くというストーリー。中学生特有の不安定さやアンビバレントな感情が様々な局面で瑞々しく耽美的に描かれると同時に、非常にグロテスクで醜悪な表現を伴うショッキングな展開が強烈な印象を残す、極めて個性の強い傑作です。

めがねと映画と舞台と 第17回 残酷歌劇『ライチ☆光クラブ』
©古屋兎丸/ライチ☆光クラブ プロジェクト 2015

『ライチ☆光クラブ』が最初に舞台化されたのは2012年ですが、2015年には脚本・丸尾丸一郎、演出・河原雅彦による歌劇スタイルの舞台が上演されました。
タイトルは残酷歌劇『ライチ☆光クラブ』。

東京ゲゲゲイや皇希といったストリートダンスシーンで活躍する人物をキャストに加え、ステージングや振付を東京ゲゲゲイの牧宗孝が手がけるという画期的な試みも功を奏し、緻密さとダイナミズムが同居した、異様な熱量を持った作品だったのをよく覚えています。

めがねと映画と舞台と 第17回 残酷歌劇『ライチ☆光クラブ』
©古屋兎丸/ライチ☆光クラブ プロジェクト 2015

登場する個性豊かな少年たちを支配しているのが、ゼラというめがねをかけた元転校生の少年です。

当初はリーダーではありませんでしたが、天才的な頭脳と類まれなカリスマ性によってグループを掌握。ライチという人造人間を創造するという野望に向かって、盲目的に突き進んで行きます。

ゼラの野望はやがて狂気を帯びていき、少年期特有の危うさとエネルギーを持って少年たちを熱病にかかったように高揚させていきます。

めがねと映画と舞台と 第17回 残酷歌劇『ライチ☆光クラブ』
©古屋兎丸/ライチ☆光クラブ プロジェクト 2015

ライチが拉致してきた美少女カノンの出現によって少年たちの歯車は徐々に狂いはじめ、ついには取り返しがつかない凄惨な最期を迎えることになるのですが、そのすべての原因だといえるのが、ゼラという存在そのものです。ゼラ自身の野心や精神的弱さはもちろん、ゼラが持つ強烈な魅力が本作の大きなポイント。ゼラを信奉する者、ゼラに対して激しく嫉妬する者、ゼラに強い不信感を覚える者、そしてゼラに異常に執着する者。

氷のような冷酷さと同時に、子犬のように壊れやすい繊細さも持ち合わせるゼラは、ステージ上で圧倒的な存在感を放っていました(演じていたのは中村倫也)。

めがねと映画と舞台と 第17回 残酷歌劇『ライチ☆光クラブ』
©古屋兎丸/ライチ☆光クラブ プロジェクト 2015

そして無視できないのが、本作が持つエロティシズムです。
ゼラのめがねは、常に冷静であろうとする彼の性格を表すアイテムであると同時に、彼のセクシャルな魅力を増幅させていました。

残酷歌劇『ライチ☆光クラブ』にはゼラとジャイボという少年との極めて性的なシーンがあるのですが、行為の途中でゼラがめがねを顔から外す瞬間は忘れられません。「めがねをかける」「めがねを外す」というだけの動作が、これほどまでにエロティックに見えるものかと、客席でハッとさせられたことを覚えています。

めがねと映画と舞台と 第17回 残酷歌劇『ライチ☆光クラブ』
©古屋兎丸/ライチ☆光クラブ プロジェクト 2015

決して物理的に大きいとはいえないめがねのようなアイテムでも、演出と芝居の力によって、ステージ上で非常に大きなパワーを放つことができる。残酷歌劇『ライチ☆光クラブ』は、舞台という場における表現の可能性を改めて実感させてくれる作品でした。今後再演されるかどうかはわかりませんが、もし再演されることがあれば必ず観たい。残虐な描写や卑猥な描写が目白押しなのに、なぜか最も印象づけられるのは少年たちの純粋さや幼さという不思議な感覚。あの圧倒的なエネルギーに満ち満ちた混沌を、もう一度目撃してみたい。そう思っている作品です。

めがねと映画と舞台と 第17回 残酷歌劇『ライチ☆光クラブ』
©古屋兎丸/ライチ☆光クラブ プロジェクト 2015

残酷歌劇『ライチ☆光クラブ』

めがねと映画と舞台と 第17回 残酷歌劇『ライチ☆光クラブ』

原作:古屋兎丸(太田出版『ライチ☆光クラブ』)
演出:河原雅彦
パフォーマンス演出:牧 宗孝(東京ゲゲゲイ)
脚本:丸尾丸一郎(劇団鹿殺し)
製作:ネルケプランニング/パルコ
【キャスト】
中村倫也
玉置玲央 吉川純広 尾上寛之 池岡亮介
赤澤 燈 味方良介 加藤 諒
BOW(東京ゲゲゲイ) MARIE(東京ゲゲゲイ)
MIKU(東京ゲゲゲイ) YUYU(東京ゲゲゲイ) /
KUMI(KUCHIBILL)
皇希 七木奏音
DVD絶賛発売中!
発売元:ネルケプランニング
販売元: TCエンタテインメント

八巻綾(umisodachi)
テレビ局で営業・イベントプロデューサーとして勤務した後、退社し関西に移住。一児を育てながら、映画・演劇のレビューを中心にライター活動を開始。ライター名「umisodachi」としてoriver.cinemaなどで執筆中。サングラスが大好き。