あなたの変化に、そっと寄りそう

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第13回『フィッシャー・キング』【めがねと映画と舞台と 】

第13回『フィッシャー・キング』【めがねと映画と舞台と 】

| 八巻綾(umisodachi)

「1番好きな映画は?」
この質問に皆さんはどう答えますか?

多くの映画を観れば観るほど、No.1を決めるのは難しくなってくるはず。しかし、私にはこの質問に対して即答すると決めている作品があります。それは、今回取り上げる『フィッシャー・キング』です。

第13回『フィッシャー・キング』【めがねと映画と舞台と 】
©1991 TRISTAR PICTURES, INC ALL RIGHTS RESERVED.

『フィッシャー・キング』は、『未来世紀ブラジル』『12モンキーズ』などで知られる鬼才テリー・ギリアム監督作品。1991年に全米公開されました。テリー・ギリアムが初めて他人の脚本(リチャード・ラグラヴェニーズ)を監督した作品でもあります。演出にはふんだんにテリー・ギリアムらしさが施され、幻想的で一風変わったヒューマンドラマに仕上がっています。

物語の主人公は、ジャックという中年男性です。彼は3年前まで過激発言で人気のラジオDJでしたが、不用意な発言により凄惨な事件を引き起こしてしまったことから無職に。今はレンタルビデオ店を営む恋人のヒモとして、酒浸りで無気力な生活を送っていました。

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そんなある夜、浮浪者に間違われ若者に襲撃されたジャックは、パリーと名乗る風変わりな浮浪者に救われます。妖精と会話をし、聖杯を探し出す使命にとりつかれたパリーに戸惑うジャックでしたが、パリーの悲しい過去を知ったことで罪滅ぼしをしたいと考えるようになります。かつて大学教授だったパリーは、3年前にジャックが引き起こした事件により妻を失い、そのショックからホームレスへと身をやつしていたのでした。

第13回『フィッシャー・キング』【めがねと映画と舞台と 】
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ジャックは、パリーが密かに恋している女性(リディア)の存在を知り、2人のキューピッドになろうと思いつきます。恋人にも協力してもらい、計画は大成功!パリーとリディアは急接近するのですが……。

第13回『フィッシャー・キング』【めがねと映画と舞台と 】
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中学生の頃、学校から帰ってきた私は何の気なしにテレビをつけ(確かWOWOWでした)、そのまま気づいたらソファにもたれかかったまま涙を流していました。社会的に転落した男と、心の傷から人生を狂わされた男。内気で極端に不器用な女と、卑屈で無気力な恋人に献身的に尽くす女。

第13回『フィッシャー・キング』【めがねと映画と舞台と 】
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ストーリーもそんなに派手ではありません。モチーフは【聖杯伝説】、テーマは【贖罪】。地味な素材ばかりのはずなのに、画面に映る世界は魔法のように美しく、愛おしく、ドラマティック。あれは、生まれて初めて”映画監督の作家性”というものを認識した瞬間だったのかもしれません。

第13回『フィッシャー・キング』【めがねと映画と舞台と 】
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そんな『フィッシャー・キング』に登場するめがねは2つ。ひとつめは、DJとして活躍するジャックが身につけているサングラスです。毒舌で売っていたジャックは、周りを見下す冷たい人間でした。超高層マンションの上に暮らし、贅沢三昧。しかし、一瞬にして彼は地面を這うように生きる存在に転落します。
失業後のジャックを取り巻く世界は赤やオレンジの暖色トーン。サングラスを外した彼は、自分の中にある良心を取り戻していくことになります。

そして、ストーリーの後半でもう一度ジャックはサングラスをかけることになるのですが……そこからの展開は実際に自分の目で確かめてみてください。

第13回『フィッシャー・キング』【めがねと映画と舞台と 】
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ふたつめは、パリーが恋するリディアが仕事中にかけているめがねです。不器用で人見知りで、誰とも会話せずに黙々と仕事をするリディアのもとに、一風変わったメッセンジャーが現れます。それはジャックが仕掛けた作戦なのですが、強烈なメッセンジャーの言動に面喰いつつも、次第にめがねを外して控えめに微笑むリディアの瞳には、これから起こる明るい展開への予感が満ち溢れています。

第13回『フィッシャー・キング』【めがねと映画と舞台と 】
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『フィッシャー・キング』には、とても印象的なシーンが度々登場します。パリーの幻覚に現れる赤い騎士、セントラルパークで全裸になって叫ぶジャックとパリー、前述したメッセンジャーのパフォーマンス、レストランでのちょっとおかしなダブルデート。その中でも特に有名なのが、NYセントラル駅のシーンでしょう。

第13回『フィッシャー・キング』【めがねと映画と舞台と 】
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恋するリディアを遠くからみつめることしかできなかったパリーは、毎日彼女の姿を目で追っていました。帰宅途中にセントラル駅に差しかかるリディアと、少し距離を置いて追いかけるパリー。周囲にいる大勢の人々は次第にステップを踏み、リディアとパリーが人混みを縫って駅構内を歩いていく間だけ、セントラル駅は巨大なボールルームと化します。
そしてリディアが駅から出て行くと、人々は何事もなかったように単なる通行人へと戻っていくのです。

恋するパリーのイメージを具現化した幻想的なこのシーンは、『フィッシャー・キング』の中でも特にロマンチックな名場面として知られています。パリーを演じるのは、今はなきロビン・ウィリアムズ。彼の真骨頂ともいえるダイナミックな演技も本作の見どころのひとつです。

第13回『フィッシャー・キング』【めがねと映画と舞台と 】
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人生に何か大きな後悔がある人や、自分は生きていくのが不器用だと感じている人には特に刺さる作品だと思います。また、【聖杯伝説】に絡めた部分も含め、構成が完璧だと感じる作品でもあります。少し変わったラブストーリーが観たい。そんなときには『フィッシャー・キング』というタイトルを思い出してみてください。

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映画『フィッシャー・キング』

映画『フィッシャー・キング』

発売中:Blu-ray ¥2,381(税抜) / DVD ¥1,410(税抜)
発売元:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
販売元:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
©1991 TRISTAR PICTURES, INC ALL RIGHTS RESERVED.