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第11回『ドリーム』【めがねと映画と舞台と】

第11回『ドリーム』【めがねと映画と舞台と】

| 八巻綾(umisodachi)
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日常的に映画を観ていると、よく「おすすめの上映中作品を教えて」と頼まれます。
一口に【面白い映画】といっても、様々なタイプの作品があるので、まずは相手の好みを考慮しなければいけません。設定がユニークな映画、圧倒的にストーリーが面白い映画、複雑で頭を使う映画、映像が美しい映画、心に染み入るような映画……。

しかし、ごくたまにですが、誰にでもすすめたいと思える映画に出会うことがあります。私にとって、現在上映中の『ドリーム』こそ、そんな作品です。

9月29日に全国公開された『ドリーム』(原題:『Hidden Figures』)は、1961年のNASAが舞台。アメリカで初めての有人飛行計画(マーキュリー計画)に尽力した3人の黒人女性たちの活躍を描いています。

第11回『ドリーム』【めがねと映画と舞台と】
ⓒ2016Twentieth Century Fox

宇宙特別研究本部でマーキュリー計画の根幹に関わることになる天才計算手のキャサリン。

計算手として働く黒人女性たちを束ねていながら、黒人ということで管理職への昇進が認められず、コンピューター導入の波に活路を見出すドロシー。

技術部に配属となり、黒人女性初のエンジニアを目指すメアリー。

第11回『ドリーム』【めがねと映画と舞台と】
ⓒ2016Twentieth Century Fox

彼女たちの前には、黒人分離政策と女性蔑視という2つの壁がそびえ立っています。白人と有色人種では同じトイレすら使えず、図書館も分けられています。キャサリンが配属された宇宙特別研究本部のメンバーは秘書以外全員白人男性で、会議には男性しか出席できません。

『ドリーム』には、面と向かって白人に罵られるようなシーンは出てきません。ただ、当たり前に差別がある。差別する側にとっては、それが差別だとすら意識できないほど当たり前に。

第11回『ドリーム』【めがねと映画と舞台と】
ⓒ2016Twentieth Century Fox

キャサリン、ドロシー、メアリーの3人は、自分たちが置かれている状況に抗います。自分に対する揺るぎない自信と誇りを胸に、決して媚びることなく毅然と行動し、簡潔かつ端的に主張するのです。

彼女たちの言動は、鈍感だった白人たちをハッとさせ、周囲の黒人たち(家族たち)の意識をも変化させていきます。

3人それぞれに素晴らしい見せ場があり、華やかな衣裳や時代の空気も味わえる『ドリーム』。
アメリカではあの『ラ・ラ・ランド』超えの大ヒットを記録し、日本でも公開されるや否や大絶賛を浴びています。彼女たちの力強さに、母として、女性として、そして1人の人間として、私は何度も心揺さぶられました。

第11回『ドリーム』【めがねと映画と舞台と】
ⓒ2016Twentieth Century Fox

そんな『ドリーム』の3人のヒロインの中で、天才計算手であるキャサリンは基本的にめがねをかけています。そんなキャサリンのセリフに、彼女のプライドをよく表しているものがあります。

第11回『ドリーム』【めがねと映画と舞台と】
ⓒ2016Twentieth Century Fox

3人の娘を持つシングルマザーでもあるキャサリンは、教会のミサで出会ったジョンソン中佐が、彼女の仕事について「そんな難しそうな仕事を女性が?」というニュアンスの反応を示したことに、露骨に不快感を示します。自分の失礼さに気付き狼狽える中佐に対して、自身の学歴と能力をハッキリと提示し、多くの黒人女性がNASAで国のために働いているのだということを説明した後、キャサリンはこう言い放つのです。

“It’s not because we wear skirts. It’s because we wear glasses. ”
-(NASAが私たちを雇っているのは)私たちがスカートを履いているからではありません。めがねをかけているからです

第11回『ドリーム』【めがねと映画と舞台と】
ⓒ2016Twentieth Century Fox

明らかにキャサリンは、めがねというアイテムに【知性】【能力】という意味を強く込めています。

有色人種かつ女性であるというハンデを乗り越えて能力を発揮し、宇宙開発事業に関わっている自分たちのプライドを「めがね」という単語に集約させている。シンプルながらも見事な台詞ではないでしょうか。

第11回『ドリーム』【めがねと映画と舞台と】
ⓒ2016Twentieth Century Fox

最後に、『ドリーム』の中で最も印象的だった台詞をご紹介します。

“黒人女性が管理職になった前例がない”
“黒人女性がエンジニアになった前例がない”
そう言って、彼女たちの人事希望をことごとく退けてきた女性上司が、自らチャンスを掴んだドロシーに対して「私、偏見はないのよ」と告げたとき、ドロシーが返した言葉です。

“I know, I know you probably believe that.”
-知っていますよ。あなたがそう思い込んでいるんだろうっていうことは。

第11回『ドリーム』【めがねと映画と舞台と】
ⓒ2016Twentieth Century Fox

もちろん日本には、当時のヴァージニア州のような黒人分離政策などはありません。しかし、日本にも様々な差別や偏見があるのはご承知の通りです。私も、きっとあなたも「自分は差別主義者ではない」「自分は偏見など持っていない」と信じているしょう。

でも、本当に? そう思い込んでいるだけではなくて?

第11回『ドリーム』【めがねと映画と舞台と】
ⓒ2016Twentieth Century Fox

『ドリーム』に登場する白人たちの、鈍感さゆえの傲慢さを鋭く指摘するこの言葉は、私の胸に鋭い痛みを持って突き刺さりました。

そして欧米に行けば、私たちは有色人種として被差別者の側になるのです。

華やかなエンターテインメント作品でありながら、現代に生きる私たちに対して力強いメッセージ性を放つ映画『ドリーム』は、誰に対しても自信を持っておすすめできる快作。

できるだけ多くの人に観てほしい。心からそう思います。

第11回『ドリーム』【めがねと映画と舞台と】
ⓒ2016Twentieth Century Fox
 

映画『ドリーム』

第11回『ドリーム』【めがねと映画と舞台と】

9月29日(金)TOHOシネマズシャンテ他、勇気と感動のロードショー!
監督・脚本:セオドア・メルフィ
出演:タラジ・P・ヘンソン、オクタヴィア・スペンサー、ジャネール・モネイ、ケビン・コスナー、キルスティン・ダンスト、ジム・パーソンズ、マハーシャラ・アリ
配給:20世紀FOX映画
  『ドリーム』公式サイト

八巻綾(umisodachi)
テレビ局で営業・イベントプロデューサーとして勤務した後、退社し関西に移住。一児を育てながら、映画・演劇のレビューを中心にライター活動を開始。ライター名「umisodachi」としてoriver.cinemaなどで執筆中。サングラスが大好き。

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