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第12回『ダンサー・イン・ザ・ダーク』【めがねと映画と舞台と 】

第12回『ダンサー・イン・ザ・ダーク』【めがねと映画と舞台と 】

| 八巻綾(umisodachi)
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映画は娯楽です。突然、何を当たり前のことを言い出すんだ! とお思いでしょうが、今回のテーマである映画『ダンサー・イン・ザ・ダーク』(2000年/ラース・フォン・トリアー監督)を映画館で観たとき、私は苦痛を伴う映画鑑賞もあるのだということを知りました。

それは、どうしようもなく退屈な駄作、思わず声を上げてしまうホラー、心がえぐられるほどシリアスな戦争映画……そういった類の“苦痛”とは全く異なる、もっと直接的な“苦痛”でした。

今すぐ席を立って逃げ出したい。でも、目が離せない。苦しくて息ができない。あまりに辛くて涙が出る。あんなに激しい映画体験をしたのは初めてでした

映画『ダンサー・イン・ザ・ダーク』
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『ダンサー・イン・ザ・ダーク』のヒロインであるセルマは、チェコからの移民。息子ジーンと2人トレーラーで暮らし、工場で働いています。セルマには遺伝性の目の疾患があり、失明間近です。しかし、ごく身近な人間以外には目のことを必死に隠し、危険な工場勤務を続けています。

彼女には、自分と同じ病気を抱えて生まれてきた息子に手術を受けさせるために、まとまった金額を貯めるという大きな目標があったのです(なお、息子は病気のことを知りません)。

「息子を失明という運命から救い出す」ただそれだけを願っているセルマの生きがいは、ミュージカル。市民ミュージカルで上演する『サウンド・オブ・ミュージック』のマリア役の稽古に精を出しています。貧しく慎ましいながらも、小さな幸せを大切にしたセルマの日々。しかし、その運命は大きく変わろうとしていました。

『ダンサー・イン・ザ・ダーク』(予告編)

セルマを待ち受ける運命はあまりにも悲惨です。「息子を救いたい」という強い想いと、その優しすぎる性格のせいで、ストーリーは一直線に破滅へと向かっていきます。

なすすべもなく転げ落ちていく中で、セルマはときに現実から目を背けてミュージカルの中に逃避します。セルマに扮するビヨークの素晴らしい歌声と、優しく洗練されたミュージカルシーン。そのシーンが美しく幸せであればあるほど、セルマの人生の暗さが際立ちます。

視力の低下や失明が大きな要素となっている以上、『ダンサー・イン・ザ・ダーク』の中でめがねは非常に大きな存在感を放っています。セルマは分厚い黒縁めがねをかけないと生活できませんし、息子ジーンも常にめがねをかけています。彼らにとってめがねを手放すことができるのは、病気が治ったときか、失明したとき。物語の後半で完全に失明し、めがねをかけなくなったセルマは、ジーンがめがねを捨てるその日だけを心の拠り所に不条理な運命を受け入れようとします。

映画『ダンサー・イン・ザ・ダーク』

『ダンサー・イン・ザ・ダーク』は、想像を絶するほどのバッドエンドで終わります。そして、その哀しすぎるラストシーンの中で、再びめがねが登場します。そのめがねはセルマにとって非常に大きな意味を持つのですが、観る人にとっては様々な解釈を可能にするアイテムとして機能します。

最後に登場するめがねに救いを見出すのか、さらなる悲劇を見出すのか。そのめがねが自分の目にどう映るのかを、ぜひ確認してみてください。

『ダンサー・イン・ザ・ダーク』が好きかと聞かれたら、私にはハッキリと答えることができません。しかし、【この世には覚悟を持って立ち向かわなければいけない芸術がある】ということを痛みとともに教えてくれた作品だったのは間違いありません。この経験が、ひとつひとつの映画に対する私の姿勢を根本的に変えました。

あなたも、『ダンサー・イン・ザ・ダーク』でタフな映画体験をしませんか? できれば体調が良いときに、一人で鑑賞することをおすすめします。

映画『ダンサー・イン・ザ・ダーク』

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発売中:Blu-ray¥2,000+(税抜) 好評発売中
発売元:松竹
販売元:松竹
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八巻綾(umisodachi)
テレビ局で営業・イベントプロデューサーとして勤務した後、退社し関西に移住。一児を育てながら、映画・演劇のレビューを中心にライター活動を開始。ライター名「umisodachi」としてoriver.cinemaなどで執筆中。サングラスが大好き。

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