あなたの変化に、そっと寄りそう

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【めがねと映画と舞台と】第24回『バトル・オブ・ザ・セクシーズ』

【めがねと映画と舞台と】第24回『バトル・オブ・ザ・セクシーズ』

| 八巻綾(umisodachi)
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『#MeToo』運動が世界中に広がり、性暴力やセクハラ撲滅の声が益々強まっている今日この頃。その根底には、いまだに根深くある女性蔑視や男女格差の問題があるのは言うまでもありません。数年前まで会社員だった私も、決して忘れられない屈辱的な出来事をいくつか経験してきました。『#MeToo』というハッシュタグは、悔し涙を流し傷ついてきた女性たちに、再び声を上げる勇気を与え世界を動かしたとして、歴史に刻まれるでしょう。

7月に日本公開された『バトル・オブ・ザ・セクシーズ』が描いている歴史的な出来事もまた、かつて多くの女性に大きな勇気を与えたに違いありません。エマ・ストーンが徹底的なトレーニングの末、7キロも増量して臨んだ本作は、1973年に行われた世紀のテニスマッチを題材にしています。女性テニスチャンピオンだったビリー・ジーン・キングと、当時55歳の元男性テニスチャンピオン(ボビー・リッグス)との世紀の対決。男性と同じ待遇を強く望み、実際に行動したビリー・ジーン・キングの公私にわたる葛藤を多角的に描いた秀作です。

【めがねと映画と舞台と】第24回『バトル・オブ・ザ・セクシーズ』
(C)2018 Twentieth Century Fox

当時のプロテニス界は男性選手と女性選手の待遇格差が激しく、ビリー・ジーン・キングは大きな不満を持っていました。男女で優勝賞金が8倍も違うのはおかしいと主張するものの、上層部は相手にしません。そこで、ビリー・ジーン・キングは他の女性選手と共に全米テニス協会を脱退。女子テニス協会を立ち上げます。

【めがねと映画と舞台と】第24回『バトル・オブ・ザ・セクシーズ』
(C)2018 Twentieth Century Fox

ビリー・ジーン・キングたちは巧みなセルフプロデュース戦術を取り入れるなど意欲的に行動し、女子選手だけのツアーを実現させます。そんな中、地道に人気を獲得していく彼女たちに対し、ギャンブル依存症の元チャンピオン、ボビー・リッグスが挑戦状を叩きつけてきます。その挑発を一度は無視するビリー・ジーン・キングでしたが、他の女性選手がボビー・リッグスに敗北したのを機に、自ら立ち上がることを決意。全米中が見守る中、”男性至上主義”を掲げるボビー・リッグスとの対戦に臨むのですが……。

【めがねと映画と舞台と】第24回『バトル・オブ・ザ・セクシーズ』
(C)2018 Twentieth Century Fox

ビリー・ジーン・キングは、プロとして、同じテニス選手として男性と平等の待遇を望みました。本作では、冒頭から彼女が持論をハッキリと述べるシーンが用意されており、その主張は明快かつ何ら身勝手なものではありません。しかし、映画の中でビリー・ジーン・キングたちは軽んじられ、嘲笑いの対象になります。”同じプロ選手として扱われるべきだ”という、たったそれだけの主張すら認められない時代が確実にあったという衝撃。冒頭のシーンから、私は怒りに震えました。

私が新入社員として配属された部署には、ほとんど女性がいませんでした。「どうせ女には無理だから」「女はすぐに文句を言うから」「女が評価されるのは、上司に気に入られているから」「女は簡単に褒めてもらえていいよな」……数えきれない”女は使えない”を意味する言葉たち。認められたら認められたで、「お前は女じゃないから」「中身は男だよな」と女レベルから男レベルへ”格上げ”してもらえるだけ。私は、いつしかそんな空気を内在化してしまい、「私は普通の弱い女とは違う」「そんなことで傷つくなんて甘い」と思うようになりました。

私は間違っていました。社会人になったばかりの頃のように、女性を貶める呪いの言葉たちに対して「くだらない」と思い続け、そう言い続けるべきだったのです。決してブレることなく、同じ主張を唱え続けたビリー・ジーン・キングのように。『バトル・オブ・ザ・セクシーズ』を観ながらずっと、私はかつて感じた悔しさを思い出すと同時に、強く叱責されているような気がしていました。

【めがねと映画と舞台と】第24回『バトル・オブ・ザ・セクシーズ』
(C)2018 Twentieth Century Fox

『バトル・オブ・ザ・セクシーズ』は、めがねが印象的な作品でもあります。本作の大きな見どころのひとつが、対決するふたりの再現度。ビリー・ジーン・キングを演じるエマ・ストーンも、ボビー・リッグスを演じるスティーブ・カレルも、ギョッとするほど本人に似ているのです。やや丸みを帯びた涼しげなめがねをかけたビリー・ジーン・キングと、少しユーモラスにも見える黒ぶちめがねをかけたボビー・リッグス。彼らが笑顔で手を握り合っているビジュアルは、インパクト抜群です。実際は試合前の記者会見での一幕なのですが、『バトル・オブ・ザ・セクシーズ』のすべてが凝縮されたショットのようにも見えます。

【めがねと映画と舞台と】第24回『バトル・オブ・ザ・セクシーズ』
(C)2018 Twentieth Century Fox

というのも、本作は男女の対決を描いていながらも、決して一方的な断罪に終始してはいないのです。ビリー・ジーン・キングとスティーブ・カレルの人間的な部分にも深く切り込み、人間は誰しも複雑な事情や内面を抱えており、簡単に判断できる人間などいないというメッセージも伝えています。既婚者でありながら、ある女性と惹かれ合い苦悩するビリー・ジーン・キング。ギャンブル依存と家族を失う恐怖に苦しみ、派手なパフォーマンスへと突き進んでいくボビー・リッグス。ビリー・ジーン・キングは、「本当の敵はボビー・リッグスではない」と語ります。彼女が真に打ち破ろうとしたものは、ひとりのテニスプレイヤーではなく、その向こうに広がるすべての人々が抱えている、自覚的・無自覚的な差別意識そのものでした。めがねをかけたふたりの握手は、ビリー・ジーン・キングが望んだ社会への希望のようにも見えてきます。ちょうど今、日本でも東京医科大学の受験操作に関する報道に、怒りの声が上がっています。性別や人種を越えて、人間同士が心からの笑顔で、対等に手を握り合える世界が実現することを、私も強く願っています。

映画『バトル・オブ・ザ・セクシーズ』

【めがねと映画と舞台と】第24回『バトル・オブ・ザ・セクシーズ』

絶賛公開中!

監督:ジョナサン・デイトン&ヴァレリー・ファリス『リトル・ミス・サンシャイン』
製作:ダニー・ボイル、クリスチャン・コルソン『スラムドッグ$ミリオネア』
脚本:サイモン・ボーフォイ『スラムドッグ$ミリオネア』

出演:
エマ・ストーン『ラ・ラ・ランド』アカデミー賞R 受賞
スティーブ・カレル『フォックスキャッチャー』アカデミー賞R ノミネート
アンドレア・ライズブロー『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』
ビル・プルマン『インデペンデンス・デイ:リサージェンス』
アラン・カミング『チョコレートドーナツ』

2017年/アメリカ映画
配給:20世紀フォックス映画
上映時間:122分
(C)2018 Twentieth Century Fox
『バトル・オブ・ザ・セクシーズ』公式サイト       

八巻綾(umisodachi)
テレビ局で営業・イベントプロデューサーとして勤務した後、退社し関西に移住。一児を育てながら、映画・演劇のレビューを中心にライター活動を開始。ライター名「umisodachi」としてoriver.cinemaなどで執筆中。サングラスが大好き。