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第9回『ベイビー・ドライバー』【めがねと舞台と映画と】

第9回『ベイビー・ドライバー』【めがねと舞台と映画と】

| 八巻綾(umisodachi)
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突然ですが、私はミュージカルが大好きです。

生の舞台だけではなく、ミュージカル映画も大好物。
『雨に唄えば』(1952年)などの往年の名作はもちろんのこと、最近では2002年に映画版『シカゴ』が公開されて以来、『NINE』(2009年)や『レ・ミゼラブル』(2012年)など数々の名作ミュージカルが映画化されているのも、ファンとしては非常にありがたい流れです。さらに、今年2月に日本公開された『ラ・ラ・ランド』のような、映画ならではのミュージカル作品が誕生しているのもご存じの通り。ここにきて、ミュージカルが静かに盛り上がってきているのを、ひしひしと感じている今日この頃です。

そんな中、今回取り上げたい作品は、8月19日に公開された映画『ベイビー・ドライバー』です。
エドガー・ライト監督によるカーアクションなのですが、“ミュージカル”というキーワードで語られることも多い本作。私も、観終わった後に「これは、まぎれもないミュージカル映画だ!」と感じました。そして同時に、サングラスが象徴的に使われている作品でもあります。

『ベイビー・ドライバー』がいかにミュージカル的なのか? そして、その中でサングラスがどのような意味を持つのか? そんなことを考えていきたいと思います。

         
第9回『ベイビー・ドライバー』【めがねと舞台と映画と】

主人公の青年“ベイビー”は、とある事情から強盗の逃がし屋を請け負っている天才ドライバーです。幼い頃に事故で両親を亡くした彼は、後遺症である耳鳴りの症状をおさえるため、常にイヤホンで音楽を聴いています。また、音楽は彼の集中力を高める必須アイテムでもありました。

やがて、遂に最後の仕事を終えたベイビーは、恋に落ちたダイナーのウェイトレスと新しい人生を歩もうとしますが、どうしてももう一度だけ仕事をしないといけない状況に陥ります。しかし、いつものように仕事はうまく運ばず……。

         
第9回『ベイビー・ドライバー』【めがねと舞台と映画と】
            

『ベイビー・ドライバー』の世界観を支配するのは音楽です。
爆音で流れる音楽に合わせて強盗やカーチェイスが進行するのはもちろん、ベイビーが何気なく街を歩くシーンでも、ベイビーとウェイトレスがコインランドリーで初めてのデートをするシーンでも、いつも中心に据えられているのは音楽。

人物は音楽に合わせて動き、生活音や銃声は音楽のリズムに合わせて音を立てる。バレエやタップダンスといったわかりやすいステップこそありませんが、音楽に合わせて人物が動き、音楽に合わせて物語が進行する構成は、まさにミュージカル的だといえるのではないでしょうか。むしろ、圧倒的にナンバーの数が多いという点では、「『ラ・ラ・ランド』よりもミュージカルらしい」とすら個人的には感じました。

          
第9回『ベイビー・ドライバー』【めがねと舞台と映画と】
 

また、『ベイビー・ドライバー』は口数が少なく内向的な若者であるベイビーの成長ストーリーでもあります。

ほとんどしゃべらず、常にヘッドホンとサングラスを外さないベイビーは、いつも強盗仲間たちに不審がられてしまいます。前半のあるシーンで、威嚇するためにベイビーに近づいた強盗にサングラスを奪われたベイビーは、黙って別のサングラスを取り出します。そのサングラスをはたき落とされたら、今度は別のサングラスを。クスリと笑わせる展開ですが、サングラスがベイビーの心の鎧となっていることをよく表しているシーンです。

         
第9回『ベイビー・ドライバー』【めがねと舞台と映画と】
           

外出するときや、仕事のときは決してサングラスを外さないベイビーですが、自宅にいるときやダイナーを訪れるときはサングラスをつけません。ベイビーにとってのオンとオフは、サングラスによってわかるという仕組みになっています。そして、最後の仕事を終えた後は完全にサングラスを外してしまいます。黒い仕事に終止符を打ち、愛する人に出会ったことで、ようやくサングラスを手放して本来の自分に戻れるかと思われたベイビー。

しかし、そうは問屋が卸しません。

         
第9回『ベイビー・ドライバー』【めがねと舞台と映画と】
 

やむにやまれぬ事情から、もう一度だけ仕事をすることにしたベイビーは、それまでとは違い、サングラスなしで仕事場に現れます。ベイビーはオンの状態ではない=その仕事に向き合う覚悟がない、ということになります。
それはつまり、どういうことなのか……?

怒涛のクライマックスでも、ベイビーのサングラスに注目してみてください。片方だけレンズが外れた状態など、ベイビーのサングラスが象徴的に扱われていることがよくわかると思います。

果たして、ベイビーは無事に足を洗い、心の殻を破ることができるのでしょうか?

第9回『ベイビー・ドライバー』【めがねと舞台と映画と】
 

映画は映画館で観るのがベストだと考える方は私だけではないと思いますが、『ベイビー・ドライバー』については、「必ず映画館で観てください」とまで言い切ってしまいたい気持ちです。

大音量・高音質で音楽の洪水に溺れながら、圧倒的な疾走感に酔いしれてください。そして、ほんの些細な音まで計算されていることに、驚きと喜びを感じてください。全力でおすすめします!

        
第9回『ベイビー・ドライバー』【めがねと舞台と映画と】
 

映画『ベイビー・ドライバー』

全国公開中
監督・脚本:エドガー・ライト
出演:アンセル・エルゴート、ケヴィン・スペイシー、リリー・ジェイムズ、エイザ・ゴンザレス、ジョン・ハム、ジェイミー・フォックス
原題:Baby Driver
配給:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント/2017年/アメリカ映画
  『ベイビー・ドライバー』公式サイト

八巻綾(umisodachi)
テレビ局で営業・イベントプロデューサーとして勤務した後、退社し関西に移住。一児を育てながら、映画・演劇のレビューを中心にライター活動を開始。ライター名「umisodachi」としてoriver.cinemaなどで執筆中。サングラスが大好き。

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