【めがねと映画と舞台と】第29回 映画『シュガー・ラッシュ:オンライン』
いきなりですが、今年の目標だった年間100本映画鑑賞@映画館を達成しました!しかし、達成感に浸る暇もなく、息子が冬休みに突入。ここからの映画鑑賞はすべて「息子が観たいもの」になるため、主演2人の熱演&熱唱が話題の『アリー/スター誕生』も、過酷すぎる現実を幻想的に描いたと評判の『シシリアン・ゴースト・ストーリー』も年明けまでおあずけです。というわけで、まず息子と観に行ったのは、ディズニー最新作『シュガー・ラッシュ:オンライン』。アーケードゲームのキャラクターたちを描いた『シュガー・ラッシュ』の続編です。
『シュガー・ラッシュ』1作目で親友となったアーケードゲーム【フィックス・イット・フェリックス】の悪役ラルフと、【シュガー・ラッシュ】のプリンセスであり天才レーサーのヴァネロペは、相変わらず平和な日々を過ごしていました。しかし、安定した仕事と親友との楽しい時間に満足しているラルフに対して、ヴァネロペは刺激のない日々に少しだけ不満を感じていました。そんなある日、ヴァネロペのためにラルフが仕掛けたサプライズのせいで、【シュガー・ラッシュ】のハンドルが取れ、ゲーム機体が故障してしまいます。
このままだと【シュガー・ラッシュ】が廃棄処分となってしまう!ラルフとヴァネロペは、インターネットの世界に飛び込んでハンドルを手に入れることを決意。eBayのサイトで見事に落札するものの、肝心のお金がありません。落札額を支払うため、ラルフとヴァネロペは過激なレースゲーム【スローターレース】に挑戦したり、動画投稿サイトで視聴数を稼いだりと、インターネットの世界で奮闘するのですが……。
『シュガー・ラッシュ:オンライン』の魅力は、なんといってもインターネットを可視化した見事な映像表現でしょう。インターネットというメガロポリスの中を、無数のユーザーが動き回っているというイメージは圧巻。近未来的な乗り物に乗ってサイトからサイトへと瞬時に移動するなど、私たちの知っているインターネットの世界を、楽しく分かりやすくビジュアル化している映像にワクワクせずにはいられません。
全体を通してまんべんなく差し挟まれるメタ的な視点も見どころです。追手から逃げるヴァネロペが(なぜ逃げているのかは作品を見てからのお楽しみ)、ディズニー公式サイト【OH MY DISNEY】の楽屋で遭遇するプリンセスたちは、世間がプリンセスに抱いているイメージについて自虐的に語ります。また、過激なレースゲーム【スローターレース】のキャラクターたちは、”ゲームあるある”に基づいて話し合いを繰り広げます。ディズニー・アニメーションという枠組みの中で、様々な事柄に関する”お約束”を俯瞰して見るという構造は実に斬新で、大人にこそ楽しんでもらいたいポイントです。
そんな『シュガー・ラッシュ:オンライン』に登場するめがねキャラは、ノウズモアです。博士のような角帽と丸めがねを身に着けたノウズモアは、【検索バー】のカウンターでお客さんの相談に応えています。ひとつの単語を聞くと、次から次へと検索予測のキーワードが口から出てしまうのが玉に瑕ですが、基本的には真面目で親切な可愛らしいおじさんです。
ノウズモアは、誰もが持つ”めがね=真面目”というイメージを、そのまま表しているキャラクターだといえます。しかし、それだけではありません。というのも、『シュガー・ラッシュ:オンライン』は、色々なステレオタイプを提示した上で覆していく作品だからです。逞しい男性に救われ守られる存在だと思われているプリンセスたちが、実は知性と戦うスキルを持つ自立した女性たちだと示したり、荒くれものだと思われているキャラクターたちが、実は仲間思いでフェアな思考回路の持ち主だということを示したり。「人々が勝手に抱いているイメージが本当の姿とは限らない」ということを、あらゆるキャラクターを使って提示していきます。
ノウズモアもまた、決して生真面目なだけのキャラクターではなく、不満も抱けば融通も利くのだということが示されます。世の中にはステレオタイプそのままの存在などいません。誰もが色々な面を持ち、様々な思いを抱えながら生きています。そう、1作目の『シュガー・ラッシュ』で悪役のレッテルを貼られ悩んでいたラルフと同じように。
『シュガー・ラッシュ:オンライン』は、デジタルネイティブである子どもたちも、あらゆる皮肉やメタ的表現が理解できる大人たちも楽しむことができる傑作です。特に大人は、アニメーション映画の歴史をつくってきたディズニー自ら、固定観念を打ち壊して新たな地平に進もうとしているということに驚くでしょう。もちろん、真の友情とは?といった普遍的なテーマを扱った感動作でもあります。親子で観て、それぞれの世代が抱いた感想を語り合う。そんな映画の楽しみ方にピッタリな1本です。
映画『シュガー・ラッシュ:オンライン』
絶賛公開中!
テレビ局で営業・イベントプロデューサーとして勤務した後、退社し関西に移住。一児を育てながら、映画・演劇のレビューを中心にライター活動を開始。ライター名「umisodachi」としてoriver.cinemaなどで執筆中。サングラスが大好き。