第18回「きれいになれるめがねって?」 ―AKITTOデザイナー・川上明仁さんに訊く―
目次
「きれいになれるめがねを教えてください」
以前、ある取材でそう聞かれたことがあります。めがねを買う際には「なりたいイメージを明確にしましょう」と私も言ってきたわけだし、こういう質問がくることも予測できたはずなのだけど……。正直、私は答えに窮してしまいました。
めがねできれいになるって、具体的にどういうことだろう?
めがねで女性を美しくみせるには、どうしたらいいのだろう??
それって、いざ言葉にするとなると案外難しい。以来、女性が「きれいに見える」もしくは「かわいく見える」めがねとはどんなものか? を、なんとなくの感覚ではなく明確に定義してみることが自分の中で課題となりました。
それならまずは、実際に女性がきれいになれるめがねをカタチにしているデザイナーさんに話を訊いてみよう! と思い立ったのです。
今回話を伺ったのは、「AKITTO(アキット)」のデザイナー・川上明仁さん。
ここでブランドの紹介をしておくと、AKITTOは2012年にデビューした日本のめがねブランド。女性らしいレンズシェイプに加え、アクセサリーのように繊細なモチーフ、スワロフスキーや七宝などでほど良い彩りや華やかさをプラスしたデザインに定評があります。川上さんは自身のブランドを立ち上げる以前には、めがねのセレクトショップに勤務していたご経験もある方です。
ちなみに私が思うAKITTOの魅力は、「男性視点の“女性らしさ”」をカタチにしているという点。かわいいけれど個性的過ぎず、ちょっと色気もあるんですよね。だからといって、媚びてもいない。そのサジ加減が絶妙だなーと。そういうデザインって、意外とないんです。いやはや、これはお話が楽しみだ!
アクセサリーを選ぶよう “ときめく”感覚を大切に
世にめがねブランドは数あれど、女性向けのめがねブランドはまだまだ少ないですよね。川上さんは、お店にいた頃から女性のめがねをデザインしたいという思いはあったんですか?
川上もともと僕は、お店にいた頃から女性のめがね選びが得意だったんです。フレームのギミックを語るというより、もう少し感覚的な部分で似合うものをオススメする接客というか。率直にいえば、僕が女性向けのめがねを選ぶというのは「どのめがねがいかに異性として“ときめく”か」ということをきちんと伝えてあげることなんですよね。そうした中で、お店で扱っている海外ブランドのフォックス(レンズが目尻のあがった)フレームとかは大好きだったけれど、それが日本人の女性にハマるかといえば難しいことも多かったから、自分でデザインをするなら上質で日本の女性が美しくかけられるものをつくりたいという思いはあったかな。
川上さんと初めて会ったのは、私がまだ「眼鏡ライター」になる以前にお店で接客をしてもらったときですけど、確かに女友達とキャッキャしながら選ぶように楽しめたのを覚えています。でも、デザイナーになるとその感覚的に捉えていた“美しい”“かわいい”を、実際にカタチにすることが求められますよね。デザインするときは、どんなことを意識していますか?
川上美しいかどうかは、目の形が一番大きいかな。女性の目の周りをどういう形で囲ってあげるか、ということ。僕のつくるめがねは、だいたいフロントのトップリム(レンズの上側)が、まあるくカーブをしていて。それは目と眉毛の間が離れている日本人のデメリットを隠すためでもあるんだけど、たとえばトップリムが真っ直ぐだったら眉毛が上の方にポコンと飛んで見えてしまうし、極端に言えばトップリムが下側に弧を描いていたら目がつぶされているような感じで、絶対にかわいくはないよね。だから目の形とレンズシェイプというのは、ひとつのポイントだと思う。
なるほど! めがねって顔型との相性で語られがちですけど、目や眉とのバランスが大事ってことですね。川上さんの描くレンズシェイプには“色気”みたいなものを感じるんですが、女性らしさを損なわないよう目を囲うことを重視しているからなのかもしれませんね。
川上あと、デザインを描くときは「手首感」というのを大切にしているかな。描いたラインをなぞっていくときに、手首が痛くなるような不自然なラインはかわいくないって決まりをつくってる。今でも僕は手描きでしかデザインをしないし、手描き感が出るほど、かわいらしい流れるようなラインができるのかなと思ってますね。
それが柔らかなラインを生むコツなんですね。
川上そうだね。あと、実のところ、僕はそんなに主張しないめがねをつくりたいと思っていて。もちろん個性的で主張のあるデザインも大好きなんだけど、僕がつくるのはそこではないなぁと。遠目で見たら「素敵な女性がいるな~」という感じで、近くにきたとき「あ、実はめがねも素敵だったのね」っていうポジションが理想だね。かける人にできるだけ溶け込むデザイン。それができてこそ、女性にとってのめがねをポジティブなアイテムにできるのかなと。
でも溶け込むといっても、AKITTOのデザインは単にシンプルというわけではないですよね?
川上うーん、どう言ったら伝わるかな。フォーマルなシーンでのパールのネックレスのような存在というか。そのモノ自体は上質で華やかなんだけれど、あくまで脇役的なポジション。それでいてエレガントだし、色気もある。そういう感じなのかな。
それは確かに、女性がかけるめがねの理想的な位置付けかもしれない。
川上とはいえ、かけたときに主張はしなくても、モノとして“ときめく”要素は必要だと思うのね。かける前に、置いてある状態で「わーっ、素敵!」と思ってもらえるような。極端に言えば、「似合うかどうかわからないけど、とにかくこれが欲しいの!」って店員を押し切っちゃうものがつくれたら最高だよね。
女性の所有欲を駆り立てるような美しいモノでありたい、ということですね。
川上そうしたアクセサリー的な感じが、AKITTOらしさなのかな。めがね売場ではなく、アクセサリー売場に指輪やネックレスと一緒に並べてもらえたら、僕にとってそれはひとつのゴールかもしれない。
女性のめがねって、本当にそういう立ち位置でいいと思うんですよね。私も女性にはアクセサリーを選ぶように、めがねを選んでほしいと思っています。陳列されている状態で、モノとして“ときめく”ものを選ぶということは、AKITTOのフレームに限らず、きれいになれるめがね選びのコツだと言えますかね?
川上うん。女性はそうした自分の感覚に素直になって選んだ方がいいと思う。だって、指輪やネックレスは“似合うから”ではなくて、“好きだから”買うと思うんだ。そのときめく感覚はめがねでも大切にしてほしいですね。
川上明仁さんへのインタビューを終えて
「表情に馴染ませながら華やぎを加えられる」めがね。
これが今回の取材で得られた、女性がきれいになれるめがねの定義のひとつです。
こうして改めて言葉にすると、さほど意外性はないかもしれない。でも、実際にこうしためがねって、探すとなると難しいもの。
私みたいなめがね好きは、めがねをコーディネートの主役にすることを考えてしまいがちなのだけど、必ずしも皆がめがねをメインに考えていないし、まだまだポジティブに捉えていない人も多いわけで。
表情に馴染ませる=地味なめがね、という選択になりがちな中で、自分の表情を生かしながら適度な彩りや華やかさを加えてくれるめがねがあれば、もっと女性がめがねのコーディネートを楽しめるのかもしれない。それはまさに、コーディネートの最後に加えるパールのネックレスのように。
それと、めがね選びに関して“自分がときめく感覚に素直に選ぶべき”というアドバイスについては、まったく同感。そうして選んだめがねは、同様に自分が好きで選んだ服ともテイストが合うことが多いと思うし、それに何より自分が好きなものを身に着けていた方が気分もアガるしね。
女性がきれいになれる、かわいくなれるめがね選びについては、これからも取材を続けていきたいと思います!
東京都生まれ。出版社勤務を経て、2006年にライターとして独立。メガネ専門誌『MODE OPTIQUE』をはじめ、『Begin』『monoマガジン』といったモノ雑誌、『Forbes JAPAN 』『文春オンライン』等のWEB媒体にて、メガネにまつわる記事やコラムを執筆してい る。TV、ラジオ等のメディアにも出演し、『マツコの知らない世界』では“メガネの世 界の案内人”として登場。メガネの国際展示会「iOFT」で行われている「日本メガネ大賞」の審査員も務める。