【めがねと映画と舞台と】第7回『アニー・ホール』
ウッディ・アレンの代表作のひとつ『アニー・ホール』(1977年)は、映画史における重要な作品となっただけではなく、ファッションの面でも世界中に大きなインパクトを与えました。
今回は、『アニー・ホール』における“ファッションとしてのめがね”に焦点を当てたいと思います。
『アニー・ホール』は、ウッディ・アレン監督によるロマンチック・コメディ作品です。
ウッディ・アレン自身が演じる主人公アルビーは、皮肉屋のコメディアン。離婚歴があり、現在はそこそこモテつつカジュアルに恋愛を楽しむ生活を送っています。そんなある日、友人の紹介でシンガーのアニーと知り合ったアルビーは、おおらかで明るい性格の彼女と恋に落ちます。
ほどなくして同棲生活を始める二人でしたが、月日が経つにつれ、シニカルなアルビーと明るいアニーの考え方にズレが生じはじめます。何度も衝突を繰り返した挙句、アニーはトニーという男性にスカウトされて西海岸へ旅立つことに。
未練たらたらのアルビーは、アニーを追ってはるばる西海岸へ向かうものの、すでに二人の仲は修復不可能だということをさとります。
そして数年後、別の人生を歩きはじめたアルビーとアニーは偶然の再会を果たすのですが……。
「男と女の関係はおよそ非理性的で不合理なことばかり。それでも愛を求めて付き合うのだ」
こんなモノローグで幕を閉じる映画『アニー・ホール』には、唐突にアルビーがカメラの方に向き直って観客に語りかけたり、会話の中で話題となっている人物を突然シーン中に登場させたりといった独特の演出や、長回し(カットをかけずに長い間カメラを回す技法)などのユニークなテクニックが、次から次へと登場します。
NYの街を舞台にしたウィットに富んだ会話とも相まって、誰もが共感する恋愛の「始まりから終わり」までを描きつつも、底抜けにオシャレな雰囲気を感じさせる傑作となっています。
そんな『アニー・ホール』の魅力を語るうえで欠かせないのが、ヒロインであるアニー(ダイアン・キートン)のファッションです。
ラルフ・ローレンのメンズアイテムを大胆に合わせたマニッシュなスタイルは“アニー・ホール・ルック”と呼ばれ、当時一世を風靡しました。これは、実際にウッディ・アレンと交際していたダイアン・キートンのファッションセンスが炸裂したもので、「太めのチノパンにベスト」といったメンズライクなスタイリングは、かえってアニーの女性らしさを強調し、世界中の女性をあっと言わせました。
そんな“アニー・ホール・ルック”に欠かせないのが、「めがね」です。
アニーは、丸っこい大ぶりのボストンタイプのめがねとサングラスを愛用していて、多くのシーンで着用して登場します。めがねをかけたアニーと、常にめがねを外さないアルビーが並んでいると、まるでペアルックのよう。
アルビーはアニーに自らの過去や人生観を語り、アニーはそれを受け止める。正反対の性格を持つ二人ですが、共鳴し合い、尊敬し合っている。そんな二人の絆を感じさせるアイテムが、『アニー・ホール』のめがねなのです。
そしてもちろん、めがねはアニーの知性とセンスを象徴するアイテムでもあり、アニーのファッションに対する自信に満ちた姿勢を支えています。
『アニー・ホール』を観た女性ならば誰しも、アニーのファッションを真似したくなるはず。
メンズアイテムを自分らしく着こなし、古典的な型のめがねを状況に合わせて使い分けながら、屈託なく笑うその知性溢れるたたずまいは、都会に生きる、そして都会を夢見るすべての女性の憧れです。
ファッションとは、自分自身を表現するもの。アニーの着こなしは、ファッションを愛するすべての女性に勇気を与えてくれました。
ウッディ・アレン作品の最高傑作に挙げる人も多い『アニー・ホール』。
普遍的な恋の歓びと切なさと、映画表現への挑戦、そして、誰もが目を奪われるアニーのファッションは、映画史に永遠に輝き続けるでしょう。
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テレビ局で営業・イベントプロデューサーとして勤務した後、退社し関西に移住。一児を育てながら、映画・演劇のレビューを中心にライター活動を開始。ライター名「umisodachi」としてoriver.cinemaなどで執筆中。サングラスが大好き。